いまの仕事にモヤモヤしながらも日々仕事をこなしていたある日、お客さんの1人が「君は独立しないの?」と聞いてきた。あまり考えたことはなかったが、ふと考えてみるとデザイナーの先輩達はどんどん会社を移りスキルアップしていた。
デザイナーは1つの会社にはあまり長くいず、新しい会社に移り引き出しを増やしてその後独立してフリーになる、というのが当時の慣例だった。
そうか、どうせ一回きりの人生だし、失敗したってまたやり直せばいいじゃん。となんとなく思えてきた。うちの実家も商売をしていたので独立というものに対してあまり不安もなかったし、むしろやってみたいと思うようになってきた。
ある夏、帰省で実家に帰った時、親父にふと聞いてみた。
「オヤジ、俺独立しようと思うんだけど」
すると、親父は「好きにやれ。ダメならいつでも帰ってくりゃえーわ」。
その言葉に、小さな野望と勇気が湧いたのを今でも覚えている。あんなに安心感のある言葉を親父からもらったのは初めてだった。今まで大嫌いで疎ましい存在だった親父だが、自分で商売を始め、身を粉にして働く姿を小さい時から見てきたし、子供3人を育て上げた事に対してはリスペクトしていた。とくに東京に出てきてからは親父の偉大さが身に染みてわかった。
いまでは、1番尊敬している人物だ。
そうだ、どうせ人生一回だ、好きなことやろう!
たかが、俺なんかちっぽけな人生さ。