逃亡記02ー武州・能ヶ谷

2021.07.18

梅雨明けの日盛りが好きだ。いきなり本気になった太陽に炙られている夏の庭。その朝、いっせいに羽化した蝉の声に静まりかえる蔵と納屋。崖下の竹やぶで何かしている作業着姿の老人ひとり。そうか、梅雨は明けたのか。一匹の虻が、そよとも動かぬ熱い空気を縫って飛んでいった。