あなたの実家のタンスの中身は 何処へ行くのか Vol. 1
2020.11.16

アートディレクター NOGAMI EMIKO

誰も予期していなかった未知の病がやってきて家で過ごす時間を余儀なくされた。

友達や仕事仲間ともリアルに合えず、実家にも帰れず、せめて断捨離に励んだ人も多かったと思う。

嫌でも増えていく服や靴やフィギュアやあれやこれや・・・ミニマムでクールな都心生活のアナタも、無農薬野菜の自給自足を楽しむロハスなアナタも何故か「気づかないフリ」になってしまう「実家のタンス問題」いつかはどうにかしないといけない。いや、そろそろ「アナタ」が何とかしないといけない。

Vol. 1 密やかにためらう。。。

「彼との初デートは浴衣姿で」とか「成人式だけは一応両親の希望が」みたいな一時期を過ぎると、ほとんどの人はキモノに関わる機会は少ないと思う。 実家の2階の奥まった部屋にひっそり佇む桐ダンスの中には「爺ちゃんが昔着ていた・・らしい地味なキモノ」とか 「母親が入学式に着ていた黒いヤツ」とか「死んだ親父が着ていたウールのキモノ」とか、 もうコレ何に使うんだかわからない紐状の布とか。 広げては見たもののなすすべもなく樟脳の匂いとともにそっと戻した体験はアナタにもあるかもしれない。 洋服なら「メーカー引き取り」「メルカリ」そして「断捨離」と思い切って処分できる人でも 実家のキモノとなるとなかなか捨てられない人が多い。 自分と縁あるひとの遠い温もりみたいものと、ほんの少し「キモノを着てみたい」「いつか着るかも」な自分。 (このいつか着るかも想定は断捨離最大の敵でもある。。) けれど引っ張り出してまず気づくのは「小っさ!!」コレ。そして「正しい着方とか知らん・・」大体ここで躓く。 そして最近特に増えた「キモノ買い取ります!」では余程文化的価値があるか高額品以外ほとんど値が付かないという事実。。 実際自分サイズにお仕立て直しまでして残すには、それなりの知識とお金が必要だし。 こうして気になりつつも遠い見えない事にしてしまう。 着物の醍醐味は「オール絹・麻・オールオーダーメイド」であることは確かだけれど、実際はそんな高級品ばかりじゃない。 私たちの実家のタンスの中身はきっと、少ない一張羅の「正絹のキモノ」より 「ウール」や「交織」や「綿」などの生活着の方が多いかもしれない。 (おうちが代々茶道教室・とか大地主で蔵持ち・とかの方は読み飛ばしてね) なめらかで艶っぽい絹の手触りは女性なら誰しもうっとりする(いや、むしろ男性が)けれど今の時代感にはむしろ、 地味な生活着風なこの忘れられた布達がしっくり来る気がする。 セーターと同じく、ウールは虫食いの筆頭で、見ないふりをしていれば日本中のタンスの中で弱り、傷み、忘れられ、そして朽ちていく・・・ ずっと自分が気になっていたこれらの事を、ほんのちょっとでも何とかしたい。