Vol.2〜 在りし日の今日-Walk around the C3city.
2020.10.15

By yoshiki nagasawa -Yoyogiuehara A.D.

 

Vol.2-代々木・梁山泊編【前編】


そう、70年代を代表する探偵ドラマ『傷だらけの天使』で、オサム(萩原健一)が住んでいるペントハウスがあるエンジェルビルだ。僕は数年前、JR代々木駅の総武線ホームから崩壊寸前のペントハウスを撮影したことがある。そのとき、代々木会館の解体は決定していたけれど、諸事情により、解体着手は2019年の夏までズレ込んだという。窓を開け、国電が入線してくる代々木駅に向かって放尿するオサム。あのすべてが霞んだ曇天こそ、代々木の街に相応しい。 JR代々木駅前から西参道方面へ。ゆるい坂の下、スーパーの角を右へ曲がると小田急線南新宿駅へ向かう寂れた商店街が現れる。この路は、僕が高校生の頃、南新宿駅で下車して代ゼミに通う路だった。駅近くの銭湯『奥の湯』は2015年4月に廃業したという。 高層ビル街の足元に広がる、忘れ去られたような街、それが南新宿界隈だ。 つげ義春原作、竹中直人監督の映画『無能の人』のワンシーンに登場した南新宿のロケ地。同作品のロードショーが1991年だから30年近くが過ぎたわけだ。映画を見ると路の左手には駐車場のフェンスが続き、右手の土手上には民家が連なっている。この路を竹中直人演じる助川助三が美石狂会へ歩いていく。いまも変わらないのは正面の橋上駅と高層ビルだけだ。 南新宿駅から山野美容専門学校を通り抜けると旧小田急電鉄本社(現小田急南新宿ビル)前の踏切に出る。旧小田急電鉄本社の竣工は昭和2年。93年の風雪に耐えてきた歴史的建造物だ。その設計者は、横浜のホテルニューグランド(昭和2年築)、東京の銀座和光(昭和7年築)、東京千代田区の第一生命相互館(昭和13年築)などを手掛けた、昭和を代表する建築家・渡辺仁(1887年~1973年)とのこと。代ゼミタワーとの新旧コントラストが新鮮だ。 最後はJR代々木駅前に戻ってから、明治神宮の杜を目指そう。殉職碑の手前を右に進み、山手線の土手下を歩いていくと北参道入口の交差点に出る。北参道の鳥居は、すぐそこだ。 鳥居に向かって柏手を打ち、山手線のガードをくぐると、さっき別れを告げた『ソフィエ北参道』が日の陰りの中に佇んでいた。僕は、あの部屋をふたたび見上げ、もういちど、あの日々に別れを告げた。