Vol.1〜 在りし日の今日-Walk around the C3city.
2020.10.15

By yoshiki nagasawa -Yoyogiuehara A.D.

 

近年、加速度的に開発が進む首都・東京。C3は、その時代の中で、とりわけ変貌著しい新宿エリアを舞台に、内外部スタッフと苦楽を共にしてきました。今日まで事務所を移転すること数回。 振り返ればそこには、さまざまな思い出に満ちた街の風景・光と影・音・匂いがあります。連載企画『在りし日の今日-Walk around the C3city.』では、多くの内外部スタッフにとって記憶に残っているであろう、C3が通り過ぎた街(事務所が所在した街)を歩き、その変貌と残存する在りし 日の風景を探します。

 

Vol.1-代々木・梁山泊編【前編】

C3と出会ったのは、たしか2001年~2002年…僕がフリーになって間もない頃のこと。かつて勤めていた広告代理店のS先輩にADW社を紹介してもらい、その流れでC3(講神さん)から仕事をいただいたのがご縁の始まりである。その頃、C3はJR代々木駅から徒歩7~8分のマンション『ソフィエ北参道』に事務所を構えていた。光陰矢の如し。もう20年も前のことだ。 10年ひと昔というけれど、変化の激しい東京では、5年ひと昔。20年を経たいま、代々木界隈の風景も大きく変わった。代々木の名を全国に知らしめた代々木ゼミナールは、少子化の影響で事業縮小を余儀なくされ、大半の機能を南新宿の代ゼミタワーに移転・集約した。駅周辺に点在していた予備校や専門・各種学校も数を減らし、午後ともなれば、スクランブル交差点を埋め尽くしていた高校生・浪人生・学生たちは姿を消した。そんなJR代々木駅前で昔と変わらないのが『山水楼』。東京屈指の味と評される酸辣湯麺が有名だけど、実は何でも旨い昭和の町中華だ。 JR代々木駅の改札を抜けて、C3へ向かう道を歩いてみよう。古い雑居ビルの軒に飲食店が連なる風景は昔と変わらない。JRの旧・山手貨物専用線に湘南新宿ラインが走り始めたのもあの頃だった。カレーのイイ香りがするな、と思ったら『ゴーゴーカレー』がオープンしていた。 踏切をわたって日本共産党のビルを仰ぎ見ながら歩くこと数分、右手にビストロMD他、数件の店舗が連なる赤レンガのマンションがC3の入り口だ。入口といっても、このマンションにC3が入居していたのではない。正確にいえば、ここがJR代々木駅からC3に行く最短の通路なのだ。 なんと、このマンションには、表側と裏側の道路を結ぶ駐輪場兼通路がある。住人が両方の路に出られるように、と配慮した設計なのだろう。しかし、その結果、誰でも行き来できる自由通路が出来上がってしまったのだ。 自由通路?の先には狭く急な階段があり、マンション裏側の路に降りることができる。この階段を下りるたびに、なぜか悪事の計画を練るアジトに行くような気持ちになったものだ。 階段を下りて左手へ。「新堀ギター」の看板が往時をしのばせる。このお宅は、あの頃と変わらない。 数秒歩くと左手に行き止まりの路地があり、そのドン突き右手にC3が入居していたマンション『ソフィエ北参道』のエントランスが現れる。『ソフィエ北参道』は建物の両側を集合住宅に挟まれており、その全貌を伺うことはできない。この圧迫された佇まい…隠れ家的な怪しさは健在だ。 北参道側から見た『ソフィエ北参道』。C3は3階の最も左の部屋に入居していた。窓の外には首都高速4 号新宿線が圧しかかり、日当たり悪く、クルマの走行音が絶えない。当時、出入りしていた者の喫煙率は高く、皆キッチンの換気扇の下で煙草をふかし、馬鹿話に興じたものだ。 北参道(四谷角筈線)。あの頃のC3は、アクの強いADW社の社員や同社OB、得体の知れないフリーランスが三々五々集まり散じる、梁山泊のような事務所だった。もちろん、仕事の打ち合わせやアイディア出しで集まっていたのだけれど、居心地が良いので、クライアント社内の噂や馬鹿話で長居することもしばしばであった。 『ソフィエ北参道』に別れを告げ、JR代々木駅方面へ戻ろう。 いまや新宿駅南口のシンボルと化したドコモタワー。その竣工は2000年9月。煤けた旧・山手貨物専用線とのコントラストも馴染の風景になった。山手線の土手下に咲く彼岸花やカンナの群生はあの頃と変わらない。 総武線と山手線の高架線の間にある三角形の敷地に殉職碑を見つけた。どんな方を悼む碑なのか分からないけれど、鉄道関係者であることは間違いない。黄色いカンナの花が初秋の陽射しを浴びていた。 変わっていくもの、変わらないもの…これまで、変わらないものたちで、なんとか持ちこたえてきたJR代々木駅前にも、変化の波が一気に押し寄せてきたようだ。オレンジのフェンスで囲まれた場所には、かつて『代々木の九龍城』と呼ばれた『代々木会館』がそびえていた。