あなたの実家のタンスの中身は 何処へ行くのか Vol. 2
2020.12.02

アートディレクター NOGAMI EMIKO 

 

Vol.2 欲張った挙句の果てに 

 

両親も親戚も紳士服や生地の輸入などに関わっていたから、

布地や針糸は子供の頃から身近だった。大きなロール状の生地反の隙間で隠れたり、

お針子さんたちの鋏を研ぎに来るオジさんの様子を飽くことなく見ていた。

いつしか興味はキレイな布や糸からキレイなカタログや写真に移り、

結果的にアートディレクターという横文字仕事を何十年もやる事になるのだけれど。

残業・徹夜が日常の日々で趣味のキモノ会に参加したところ、コレがヤバかった。

建築家やイラストレーターや音楽プロデューサーのメンバーと飲み倒しながら、

安い反物を見つけ、粋な裏地を探し、足袋や草履を誂えに行き・・・

分不相応の散財の後に気づけばキモノやら小物がそれなりの数になっていた。

実家のタンスどころか自分の狭いマンションの収納は満タンに。

ここでようやく「着物を手放す事の苦しさ」を自分が味わう事になってしまった。

誂えたモノを手放すって、洋服をバシバシと処分するのとはまるで違ってた。

キモノの凄さは何といっても「1枚の布に戻る」これに尽きると思う。

もちろん仕立てるために鋏は入るが、ほどいてしまえば四角い長いカタチに戻る。

これが「親子孫三代にわたって洗い張り」とか「コロナ太りしたんで巾出し・・・」

なんかを可能にしている。

洋服もサイズ直し・リフォームは出来るけれど、立体的に作るためにバラせば細切れの布。

四角い布で平面に仕立て、折りたたみながら身体に沿わせるキモノは何だか折り紙に似ている。

およそ60年前の叔母の形見分けの羽織2枚

母に引き継がれ、そして長身の私にはサイズ直しが足らず、思い切って帯に仕立て直した。

京都の帯職人「奥野工芸」さん作

高齢の母は存命だが、いつかこれが思い出のひとつになるんだと思う。

 

気の遠くなるような緻密な織や、洗練された美しい染は素晴らしい文化で、

何より布地として幾度も再生可能なキモノは本当にサスティナブルな先人の知恵の結晶だと思う。

オンナ子供だけの話じゃ無くてむしろ男性こそ考えるべきなのは、実家のタンス問題はいずれ

「実家相続問題」となってあなたのフトコロ具合を悩ませる。

だからこそ中身にちょっと気に入った色や柄があったら、まずは自分用に仕立て直しできないか。

サイズ的に無理なら誰か着てくれる人に譲れないか。そしてどうにも持て余したら・・・

違うカタチで甦らせる事ができるんじゃないか。

 

今を生きる私たちの生活の一部として